HOME > Interviews > GLEN PHILIPS/グレン・フィリップス(2006)

Interviews

GLEN PHILIPS グレン・フィリップス

インタビュー
2006年4月29日(日)@下北沢『ラ・カーニャ』

GLEN PHILLIPS グレン・フィリップス かつてグレンは、トード・ザ・ウェット・スプロケットというちょっと名前の覚えにくい(バンド名は『モンティ・パイソン』に由来)バンドに在籍していた。1986年にカリフォルニア州サンタバーバラで結成され、89年にメジャー・デビューしたトードは、「ウォーク・オン・ジ・オーシャン」や「オール・アイ・ウォント」といった名曲を大ヒットさせ、90年代アメリカン・オルタナティウ゛・ロックの重要バンドのひとつだった。
 グレンの書く曲は穏やかさや繊細さの中に力強さを秘めていて、私はたまらなくそこに惹かれていた。触れたら壊れてしまいそうに見える脆くナイーヴな音楽に、守ってあげたい、抱きしめてあげたいと手を差し伸べてみたら、なんの守られて抱きしめられているのは私の方じゃないか、そんな風に思ったことが何度となくあった。
 98年にバンドが解散した後、グレンはソロに転向、2001年の『Ablum』、2005年の『Winter Pays For Summer』と2枚のオリジナル・スタジオ・アルバムをリリース、そしてこの5月にはソロ3作目となる『Mr.Lemons』を発表した。ファン待望の初来日公演が実現したのも、ちょうどその頃だ。
 インタビューが行なわれたのは、東京公演の開演前。バンド解散からソロになってから今日まで、抱えていた葛藤やストレスとどう折り合いをつけてきたのかを語る彼の表情に、もう迷いは見えない。その迷いのなさこそが、新作『Mr.Lemons』に漂う、なんともゆるやかで気持ちのいい空気を生み出しているのだろう。


ソロになって、唯一の問題は孤独だって事かな(笑)
人とやるのは楽しいからね
トード・ザ・ウェット・スプロケットとしてのプロモーション来日から10年以上が経ちますが、当時のことは覚えていますか?
GLEN PHILLIPS グレン・フィリップス
リハーサルの合間に、音楽評論家の中川五郎氏と談笑
グレン: ほとんど覚えてないな。泊まってたホテルが大きな通りに面していて、そこから出るのに一苦労だったのと、ショウケースを一つやった以外にはレコード会社でのインタビューだなんだで、3泊くらいかなあ。あっという間だったからね。

そして、この10年の間にバンドの解散があったりしたわけですが、まず、解散してからソロとして再スタートを切るまでの3年間の空白は何を考えていたのでしょうか?
グレン:
ずっとソロになりたいとは思っていたんだ。バンド時代、地元のレコード会社と契約して、曲を出すということがあまり大変ではなかったからね。ソロになるとしてもそのプロセスを一度経験してるんだから、そんなに大した問題ではないだろうって考えてたんだ。ところがそうではなかったからね。バンドが解散した事についてレコード会社は怒ってたんだ。だから、僕とも契約してくれなくなったんだ。ソニーでやっていこうと思ってたんだけど、そうも行かなくなっちゃったから、僕は僕で腹を立てていたというわけさ。で、曲を作ったり演奏したりしながら、時間を過ごした。単純に事が運ばなかったから、とてもイライラしながら、数年を無駄にしてしまったね。人のせいにしたりして…。僕自身の問題だけど。だから…受動的に流れに乗っかればいいやと思ってたのがそうではなかったんで、ちょっと…ゆっくりだったかな。

もう1度バンド、ではなかった?
グレン:それも考えたんだけど、誰とやっていいかわからなかったんだ。トードはホントに自分達が高校生の頃、友達同士で作ったバンドだった。ドラム募集とかって記事を出した事もないし。自然に出来あがったからね。だから、解散した後、何人かと一緒にやってみたんだけど、求められるものというのは、以前やってたことが比較の対象になっているから、クオリティの高さみたいなものを要求されたんだろうね。バンドと言うよりもむしろビジネスに近かったかな。でも、どうせやるなら、音楽の部分に重点をおいてやりたかったからね。ビジネスとしてではなく。それと、活動の拠点としてはサンタバーバラに住んでいたのでは難しかったよね。僕みたいな年齢でバンドをやっていこうと思うと、ちょっとね。若い子ならともかく。いっそロサンゼルスとかに移ろうかとも考えたんだけど、友達もいるし、家族もいたからね。ギターと歌さえあればいいんだから…まあ、それでソロになったんだ。

実際ソロになってみて、バンド時代と色々勝手は違うと思うけれど、やってよかった、と思ってますか?
グレン:唯一の問題は孤独だって事かな(笑)。人とやるのは楽しいからね。ツアーに出た時なんか、マネージャーもいない状態でひとりで車を運転して移動したりしたんだ。バンドを調達するお金もなかったし。人と一緒に活動できる金銭的余裕がなかったから…今までいた世界とは別世界だった。他の人と一緒にやる機会が何度かあった時には、「やっぱり良いなあ」って思ったよね。でも、ロック・バンドにいないことやロック・ミュージックが恋しいということはないよ。今やりたいのはもう少し静かな曲だし。だから、「恋しいか?」っていうと、それはない。

とにかく、今のインディーズは凄いよ
最近の優れたアーティストはみんなインディーズ出身だ

前作はユニバーサル傘下のLost Highwayからリリースされましたよね?
グレン:契約の前にすでに、レコードは出来あがってたんだ。そこで、マネージメントに関しての助言をアイランドに投げたんだ。でも、アイランド側はやらないってことになって。ただ、アルバムは気に入ってくれたらしい。自分達が手掛ける音楽とタイプは違うけれど出来が良いからってことで、(タイプの合う)Lost Highwayを紹介してくれたんだ。それで契約が決まった。みんないい人だったしね。でもね、インディペンデントなんだけど結構メジャー的な部分もあって、手応えが遅いアーティストはすぐに契約を切る傾向にある。ティフト・メリットとかキム・リッチーといった良いアーチストを手放してしまったりしてるんだ。とはいえ、最初に組んだ所としては自信を持たせてもくれたし、良かったと思ってるよ。ホントに良いアーティストしか契約しないから、その中の一員になれたことを誇りに思ってもいるしね。

日本でも今またインディペンデント・レーベルの可能性が再評価されていますけど、アメリカも同じことが言えますよね?
グレン:もちろん。メジャーはミリオンにしか興味がないから、大金を遣うのは確実に回収できる旬なものだけでしょ。でもインディペンデントはそうした影響によってできる隙間に入り込んでいく。Rounderっていうレコード会社の人と話した時にも笑ってたよ。メジャー会社は年々売り上げが落ちていく事を嘆いているけど、Rounderなんかはむしろ伸びてるんだって。毎年ね。インディーズは伸びてるんだよ。自分達が好きな曲を売ってるし、それは大きな違いでしょ。予算がないから、お金の遣い方にも凄く工夫がある。でもメジャーは湯水のごとく遣えるから上手く遣わない。効果があると思うと、撒き散らすように遣うけど…。ポップ・ミュージックに何百万ドルも遣うなら意味があるんだろうけど、他のにはね…。とにかく、今のインディーズは凄いよ。よくやってる。才能あるアーティストを見出して、売り出してるし。最近の優れたアーティストはみんなインディーズ出身だ。

今回の新作のレーベルは?
グレン:フォンタナが発売元で、大元の契約はハイワイヤーで、僕がレーベルを作ったから僕のレーベルになるのかな。だから、インディペンデントになるかな。契約に関するごたごたで、このプロジェクトが遅くなっていくのが嫌だったしね。凄く早く仕上がったからね。レコードに関する契約を獲得するために、今まですごく大きなエネルギーを使ってたんだ。契約書を書いたり、デモ・テープを作ったりとかにね。ミュージシャンである事を忘れちゃうんじゃないかと思っちゃうくらいだ。レコード会社がやるべきところを僕がやるから、喜ばれちゃったりしてさ。そういう手間をかけるのはもうやめて、やるべきことだけに集中しようと思ったんだ。もう、人を待つのはやめて、今レコードが作れるんだったら作って、展開は大きければそれに越した事はないけどまあ、小さくてもいいや、って思えるようになったしね。

癒される音楽をやりたかったんだ
温かく静かな感じで…だからシャウトもないし(笑)
今作は、具体的にいつ頃制作したのですか?
グレン:去年の11月かな。わりと最近だよね。Lost Highwayがスタジオの手配なんかをしてくれてたんだけど、それが延期になって、先にデモを聴きたいって言われたんだ。そこで、この話はないなって思ったよ。だから、デモを作る代わりにアルバムを作った。人を待って、反応を聞いたりするのも、もういいやって感じだったしね。ミックスをしたのが1月かな。ナッシュヴィルに飛んで1週間やって、間を空けてまた1週間くらいかけたんだ。

タイトルの『ミスター・レモンズ』は誰のことなのでしょう? モデルになった人が実在したりするのでしょうか?
グレン:色々答を考えてみたんだけど…(笑)。そういう名前のスタジオがあるんだよ。猫の名前にちなんで付けたらしいんだけどね。他にも由来を考えてるけど、もし後から他の理由を聞いたらそれはフィクションだよ(笑)。あ、それに、僕も、酸っぱいヤツだし(笑)。

オープニングから、強力に引き込まれる作品ですよね。メロディに掴みがある、というのでしょうか。
グレン:そうだね。ダイナミックっていうか、ね。今までのアルバムに比べて静か目でもあるけどね。最初に感じるその強さみたいなのはあまり続かないでしょ。どちらかというと、癒される音楽をやりたかったんだ。温かく静かな感じで…。だからシャウトもないし(笑)。

ですね(笑)。デュエットしてるのはキム・リッチーと…。
グレン:キムは最後のフレーズも一緒に書いてくれたんだ。それからガリソン・スターに、あとケイト・ヨーク。彼女達の声が素敵だから、デュエットしたかったんだ。

願いが叶うなら、他に一緒に歌ってみたい女性シンガーは?

GLEN PHILLIPS グレン・フィリップス
ファンにサインするグレン
グレン:ビョーク(笑)

!! そうなんですね!?
グレン:出来たら光栄だよ。大好きなんだ。



私生活では3人の娘さんのお父さんでもありますが、ラジオやテレビでお嬢さんたちとヒット・チャートをチェックしたりもするのですか?
グレン:うちはケーブルTVを入れてないんだ。DVDの再生しか家では出来ないんだけど、残念ながら、ituneの店を見つけちゃったんだよね。だから、娘たちはそこでプロモーション・ビデオを最初の30秒だけ観たりしてるね。学校ではポップが主流みたいだけど、家ではいつもそれとは違う音楽をかけてるから。娘たちはブラック・アイド・ピーズもグリーン・デイもシャキーラもニルヴァーナも好きだよ。わかりやすい趣味だよね。

お嬢さんたちは、それぞれいくつなんでしたっけ?
グレン:10歳、9歳と4歳。

まだまだ、これから音楽の趣味は変わってくるでしょうね。
グレン:そうだね。一緒に踊りやすい曲っていうのも、今は大事みたいだし…その辺り、理解はできるよ。

(歌詞の説明が)具体的過ぎると多分、僕個人の思いから
抜け切らないと思うんだよね(笑)
あなた自身は、最近の音楽を積極的に聴くタイプですか?
グレン:ポップ・ミュージックという存在そのものには、敬意を払ってるつもりだよ。完成されているものだと思ってるしね。でも子供向けだよね(笑)。自分がBGMとして聴くとしたら、もっとフォークっぽいゆっくり目の静かなものを選ぶかな。聴くことに集中するとなると、もう少しまともな歌詞のものが望ましいし、初めて耳にするフレーズが聴きたいよね。最低でも表現に工夫があるような…。ポップには、あまり新しいものが込められていないでしょ。サウンドとかビートとかではアレンジが利いても、歌詞そのものにはあまりそれは感じられない。最近って、アーティストの為にプロデューサー達が歌詞を書いてるんじゃないかと思うんだよね。60年代のバッド・ポップス時代の頃の歌詞のほうが、まだスマートだった気がするよ。作品としてはずっと良いものを作ってた。今は、みんなサウンドやリズムに関しては技術が進歩したんだと思うけど、歌詞はダメだ。

そんな風に歌詞に厳しいあなたが、歌詞という点で特に尊敬に値する人を選ぶとしたら、誰になりますか?
グレン:沢山いるけど…すぐに思いつくのはリッキー・リー・ジョーンズでしょ、それにビョーク。彼女の歌詞は本当に好きだね。あとはマイク・スコット(ザ・ウォーターボーイズ)。彼は最悪な時もあるんだけど、良い時は本当に良いんだよ。アルバム聴いてても、曲によって良いなあ…ってなるのとオエーッってなるのと両方ある(笑)。まあ一生懸命何か言おうとする作詞家は、そういう傾向にあるけどね。ヴィクトリア・ウィリアムズでしょ、リチャード・トンプスンに、レディオヘッドも好きだな…レディオヘッドは何言ってるのかほとんどわかんないんだけどね(笑)。でも好きだよ。ニルヴァーナもそうだったよね。言葉を見ても、まったく意味がわからないんだけど、その背後に漂う雰囲気は伝わってくるっていうかさ…ナンセンスなんだけど、その中にこそ大きな意味があるていう…どうやるのかは謎だけどね。ナンセンスな事を言っててやっぱりナンセンスでしかなかった連中のほうが圧倒的に多いしさ(笑)。もしくはすーごく意味はわかるんだけど、何も感じるものがないというかね。そう考えたら、エリオット・スミスとか、エイミー・マンとか、いいアーティストはたくさんいるなぁ。

自分自身の手法を考えた場合、歌詞に関して、先ほど話していたナンセンスな中に意味のあるものを書きたいか、それともストレートに思ってる事を伝えたいか、どちらの傾向にあると思いますか?
グレン:その中間かな…(笑)。どちらも、というか。作品の中にもストーリーがあるものはあるしね。自分が前に受けたインタビューの焼き直しになっちゃうけど…この新作の中でもシチュエーションがはっきりとしてて、どこでどういう出来事があって、ということが書いてあるものは何曲かあるんだ。ただ、あまり説明的にしないようにはしてるよ。じゃないと、もしシチュエーションが違ったとしても感じ方は同じだったりするからね。そうあって欲しいんだよ…話している意味がわかりににくくてごめんね…ただその間でありたいな。説明してもいいんだけど…自分としては、多分ポイントとか局面とかそういう部分では分かってもらいたいから説明的になるし、その他の部分は逆に聴き手に任せたいと思うし…その方が、音楽が僕にとってのものだけじゃなくなるでしょ。具体的過ぎると、多分僕個人の思いから抜け切らないと思うんだよね(笑)。
 他のアーティストの作品で思いついたんだけど、「シンキング・アウト・ラウド」って知ってるよね? ロン・セクスミスの。

ええ、もちろん。
グレン:あの曲の中に「〜If we poured ourselves like this bottle of wine,And let it flow weユll figure it out〜」っていう部分があるんだけど、その中で彼は別に夕飯を食べ終わった後だとかそれが夜だったとか、ワインを1本空けたとかそんな事はまったく言ってないんだよね。A bottle of wine ではなくThis bottle of wine と言ってる。そのひと言の違いによって、この会話が持たれている部屋が浮かび上がらない? 部屋のことなんて説明しなくても感じるでしょ? ほんの少し何が起きてるかしか伝えない。ディテールはまったくなしで、ふたりの人間がいて会話をしている。間に1本のワインがある…分かるかな?

「a」と「the」の違いで、イメージを膨らませるって事でしょうか?
グレン:そうだね。もしここで a bottle of wineって使うとイメージは沸くけど曖昧じゃない? あえて this bottle of wine ってする事でもっと明確になるでしょ? そういう違いダイスキなんだ(笑)。

今回のアルバムはかなり大人向けだね
ラジオの前にいる子供達に聴かせるために書いたものではないよ(笑)
なるほど(笑)。では、ここで、あなたがこれまでにリリースした3枚のアルバムに関して振り返って頂きたいと思うのですが…。
グレン:わからないなぁ…前の2枚についてはあまり考えたくないしね…ちょっと厳しくなるかな。

では、新作の話だけにしましょうか。
グレン:いや、他のについても話せない事はないんだ。『Abulum』の時はポップ・アルバムを作らなくっちゃっていう凄いプレッシャーがあったし、小さいインディから出したし、自分の中には「ポップで良いのか?」っていう不安もあった。2枚目の時は…ポップになりたかったし(笑)、売りたかったし…そして、今回のアルバムは自分が聞いてるようなアルバムにしたかったね。好きな時間…走ってる時やご飯を作ってる時とかね。僕の好きな時間は、友達と話をしながら料理を作ることなんだ。そういう時、音楽を聴きたくなるよね。友達と、奥さんと、一緒にいる時とかにね。だから、そういうシーンのためのアルバムを作りたかったんだ。ビジネスについては最近のインタビューでもよく話をしたんだけど、結構若い時に成功しちゃったじゃない? 今は違うけど(笑)。それで、実は結構、昔あったことを取り戻さなくちゃってプレッシャーになることもあったんだ。周りからも自分自身からもそういうプレッシャーを受けたというかね。何か、喪失感が強かったのかな。数年経って、やっと自分が手にしてるものに目が向くようになった。小さくても、自分がかつて手に入れて今も持ってるものにね。そして今は、一緒に仕事をする仲間もそれを認めてくれてる連中なんだ。ラジオの営業を取ってきてくれるレコード会社もなければ、以前のバンドみたいになることを要求するマネージャーがいるわけでもない。今の自分が作り上げるものを、一緒に自信を持って支えてくれる仲間がいる。そういう自分に、やっと自信が持てるようになった。だから今回のアルバムはかなり大人向けだね。ラジオの前にいる子供達に聴かせるために書いたものではないよ(笑)。

そんな風に思えるようになったのは、素晴らしいことですよね。ところで、料理なんかもするんですね。
グレン:家にいるときはよく作るね。作るのは、自分が食べたいものだけど。今回の来日はそれが最高なんだ! 食べ物がホントにおいしいね。注文してもしたりないくらいなんだ(笑)。彼女(と、スタッフの女性をチラッと見る)は延々と注文し続けてるよ!

(笑)そういえば、鎌倉にも行かれたんですよね? どうでした?
グレン:最高だったよ。この旅のなかでも大好きな1日になったね。すごく綺麗だった。仏像も見たし。東京も好きだけど、スピードについて行けないよ。鎌倉は僕に合ってた(笑)。ペースがゆっくりでいいね。(鶴が岡)八幡宮にも行ったし、本当に沢山歩いたよ。1日中ね。

では、今日これからのライヴを楽しみにしていますね!。
グレン:どうも、ありがとう!!


 この日のライヴは、夕方の部と夜の部の2回まわし、いわゆるマチネというやつだった。不覚にも体調を崩していた私は、夕方の部だけしか観ることができなかったのだけれど、あのじわっと沸き上がって来る感激をどう言葉で伝えたらいいのだろう。
 私が初めてトードのライヴを観たのは、89年、フィラデルフィアでのことだった。お目当ては、当時大好きだったマイケル・ペンで、その前座に出て来たのがトードだった。彼らの曲は知っていたけど、外見を知らなかった私。同行していた友人に「このバンド知ってる?」と聞かれ、「ううん、知らない」と答えようとしたところで、ハッとひらめいたのだ。「あ、この曲、この声…絶対に最近よく聴いてるぞ」と。あの頃からグレンの書く曲には人の心を捉える魅力があり、その歌声には無視して通り過ぎることのできない吸引力があった。
 下北沢のアットホームなヴェニューで、ギター1本抱えて歌うグレン。グレン・フィリップスの曲はもちろん、トード時代の曲や、カヴァー曲も披露(夜の部では、インタビュー中に登場した「シンキング・アウト・ラウド」を演奏したそうな!!)してくれた。ギターの音が次の曲のイントロを奏で始めるたびに、胸がドキドキした。そこにグレンの声が重なると、ドキドキはもっと大きくなっていった。偶然入った洞穴で(どんな話だよ、一体!?)、キラキラと光り輝く宝物を見つけてしまった私、みたいな感じ!? これが夢なら醒めないでー!!と、何度も何度も心の中で神様にお願いしていた。

ページTOPへ
From USA
From UK
The Other

ミスター・レモンス/Mr.Lemons
『Mr.Lemons』
<CD>UMABHE001UMAM1/bigHelium ※ 輸入盤のみ